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鬼畜と心配性とサポート役 第4章 7話

 生徒会室に零斗と帝が帰ってきたとき、すでに黒は白と早也をつれて未開発の森へと向かっているようだった。

 机の上の置手紙に、それらの詳細が書かれている。

 それを眺めながら、伊家猫は前足でつついた。


「へえ、ちゃんと行き先から出かけた時間まで分刻みで書いているね。俺の身の回りじゃあまり見ない人だなぁ、黒さんって。」
「まあ、性格はきりきりしているからな、アイツ。」
 帝はそう言いながら乱暴にソファに腰掛ける。


                                :




 すでに空は夕日間近の黄色を帯びていた。


「湿っぽいぞここ。」
 未開発の森の中、白が顔を顰め、垂れている蔦を手で払った。

 羽虫飛び交う中、黒は蝿を素手で叩き落とす。

 恐ろしい勢いで振り下ろされたその手に、蝿はなすすべもなく空中で潰れた。

 白が顔を顰める。


「…えげつない殺し方だな。」
「スプレーを使って殺すのも、人間にしてみれば毒でじわじわ殺されるようなものよ。一瞬で死ぬのとじわじわ死ぬのだったら、私は前者の方がいいわね。」
「すでにそれはまともな人間としての観点を失ってるぞ。」
「あらそう。」


 そんな会話に、肩を怯えるように震わせながらも早也は森の中を進んでいた。

 すでに道らしき道は無く、迷っているような感じも、無くはない。

 町のように地図が無いのだから、仕方が無いのだ。


「…ここに、いないんでしょうか……。」
「ここまで探しに来て、それは禁句だろ、凡太。」
 白がその後頭部を見下ろす。

 思わず早也は振り向き、それからびくりと体を震わせた。

 酷く真っ直ぐな瞳に、何かしらの恐怖を見つけたのだろう。


「次、弱音を吐いたらお前の妹見つけたときに全部暴露するぞ。つべこべ言わずにさっさと妹探せ。」
「はい…。」
「返事が小せぇ!」
「はひいっ!」
 すでに白は部下として彼を扱っているようだ。



 くだらない、とばかりに黒は首を振り、そのまま先へと進む。
 ふと、その足が止まった。

 白と早也が、突然立ち止まった彼女の背中に視線を注ぐ。


「…。」
 足元に注がれた黒の視線が、すう、と音もなく微笑む。
「進むわよ。」
 この3人の誰のものでもない小さな足跡が、彼女の足の傍の腐葉土に刻まれていた。

                               :



 齢7歳の少女は木の洞の中で目覚める。
 未開発の森は、能力で植物の声が聞こえる彼女にとって、家と同じくらい居心地がいい場所だった。


 彼女の能力は、父方譲りのものである、脚の速度が急激に高まる技。

 そして、母方譲りの能力として、植物の成長速度を促進させるもの。
 少女が母親と違うのは、少女だけに植物の声らしきものが聞こえることだろうか。


「ふん、だ。」
 少女―――速瀬 留美はいじけた様に呟き、洞の中から這い出てくる。

 2重能力者である彼女は、この島の中ではまるで研究動物のように扱われるのだ。

 殺しては駄目。

 虐めても駄目。

 大切な、そう、数少ない生き物。
 幼いながらも留美は、その位のことは理解していた。


「お兄ちゃんのばか。」
 幼稚園の送り迎え。
 食事を作ること。
 楽しくゲームをして遊ぶこと。
 だというのに、どうして自分の兄は分かってくれないのだろう。

 植物の声が誰にも聞こえないからと言って、どうして笑ってくれないのだろう。
 分かってほしいのに。
 本当は、誰よりもこの声を聞いてほしいのに。


 慰めるように、留美の頬に植物の葉が触れる。

 おなかが空いたと何か食べられるものを探して歩き回るが、徐々に暮れる暗闇で寂しさは募った。
 こんなとき、いつも兄が絵本を読んでくれたのに。

 小学生になったばかりだけれど、兄が読んでくれる絵本が大好きだった。


「…お兄ちゃん……。」
 謝れないけど、会いたいよ。
 ぐるぐると空腹を訴えてくる音。

 それを抱えたまま、留美は歩き出す。


「…あれ?」
 まるで高音の弦楽器の音。

 硝子のように澄んだ、冷たい音。
「これも…植物の声なのかな…。」
 何だか、怖い。
 けれど、留美の意思に反して足はふらふらと動き出す。

 まるで夢遊病者のような足取りで、ゆっくりと。
 森の奥へ。

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