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鬼畜と心配性とサポート役 第4章 9話

 ふらふらと、留美は足を進めた。
 微かな甲高い音は、彼女の思考をすでに奪っていた。

 何故自分がこの音のする先へと進むのか、留美自身さえもその目的を見失っている。


(なんか…いーきもち…)
 音は鼓膜に吸い込まれて柔らかいものへと変化する。
 そして踏み込んだ場所は、ぽっかりと開けていた。


「あれ…?」
 お月様が、天上に。

 開けた場所は、まるで遊び場のよう。

 しかし中心に木はない。

 いるのは、そこに立っている、赤い影。
 そこの周りに生えているのは、3つの青紫の巨大な花。

 まるでその赤を包むようにして、肉厚の巨大な花弁を広げている。
 そこから、この高い音が響いてきているのだ。


「あらら、こんなちびっ子だけか。」
 赤から声が聞こえる。

 随分、軽々とした声音だった。

 けれど、留美は立ち止まることも出来ずにふらふらと歩み寄った。


 近付くにつれ、その赤色の輪郭が浮かび上がるようにして現れる。

 年の頃は青年。

 まず目を引くのは、深紅、目を見張るほど赤い長髪。

 黒瞳の目尻は鋭いが、それと反して口元は人懐っこそうに笑っている。

 けれど、どこか張り付いて歪んだ笑みを髣髴とさせた。
 着ているものは、死刑囚のような白く簡素な服。


(あれ…?)
 ぼう、と目の前の景色が翳む。

 背後の森が、ざわざわと揺らめく

 そっちに行ったら駄目だよ、戻れなくなるよ。―――そう呼んでいる。


(止まれない)
 そう、意識に反して足は止まらない。
 やがてその赤とは数歩の距離を残し、留美は立ち止まる。

 見上げたその赤い青年は、そんな無垢な彼女の額に手を翳した。
 耳朶を打つのは、睡魔を誘うほど滑らかな青年の声。


「眠っているだけで終わるからね。こーんな、面倒な力、全部…」


「僕のっ! 妹にっ! 手をっ! 出すなぁあああああああああああっ!!!!」


 突如として、その声は中断。

 聞き覚えのある声に、留美は一瞬で我に返る。

 その瞬間、彼女は宙に浮いたような感覚を知った。


「あれ…?」
 いつの間にか留美は、誰かの腕に抱きかかえられていた。

 肉眼では正視も出来ぬ速さで森が流れ、そのすぐ後、地面を僅かに削る音を立てて景色は固定された。
 


 変わらぬままざわめく森。

 留美を抱えていたのは、紺のブレザーの袖に通した腕。

 灰色髪の、しかし、どこにでもいそうな少年の顔が目に映った。



 その顔は、自分が良く知る人物の…。
「お兄ちゃん…!」
「留美、大丈夫か?!」
 少年、早也は留美をしっかりと抱きしめる。

 その抱え方はお姫様抱っこ。

 兄として、妹を抱えるのは慣れているのだろう。


「その根性がもうちょっと早くに出ればいいんだがな、凡太。」
「お兄ちゃんらしく助けたことは評価するわ。」
 早也の隣の林から出てきたのは、白いスーツを着た白。

 そして、対照的な黒いスーツを着た黒。


「あらら、不良グループの団長に、生徒会の美人書記…。これはまた派手な面子だねぇ。」
 赤髪の青年はくすくすと笑う。
「副会長は? あ、あと生徒会長も。」
「帝と零斗は仕事です。…児童誘拐未遂として、あなたを捕縛します。」
 生徒会らしい仕事ではないが、とりあえず目の前の青年からは異常な空気が伝わる。

 身の回りに咲かせた花は、花弁の肉厚さもあって現実味を帯びているのに、その毒々しい咲き様を陽炎のように揺らめかせていた。


「ええと…留美ちゃん?」
 黒は早也の腕の中の留美を見やる。

 名前を突然呼ばれ、彼女は身を震わせながらも頷いた。

 突然の事態に混乱しているのだろう。

 はっきりとそう分かる幼い瞳を見た黒が、何とか落ち着かせようと声を潜める。


「お兄ちゃんと一緒にいてね。―――速瀬君、留美ちゃんを守るのよ。」
「は、はい!」

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