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鬼畜と心配性とサポート役 第4章 15話

「…ああ、何だ。」
 青年の口が開き、疲れたようにその黒瞳を向ける。

 黒も緩慢に身を起こし、それから視界に入ってきたものを映像として捉えた。
 


 まず、金と見間違えるような毛並みの猫。

 頭頂部の長い毛を紐で纏めており、まるでちょんまげのようになっている。

 黒い瞳は目つきが悪く、真っ直ぐ青年を睨みつけていた。
 その猫の後ろに、白いTシャツ姿の少年、零斗。


「どうしてここが分かったのかなぁ?」
 青年が無邪気に首を傾げる。

 その問いに、猫が声を上げた。
「この姿だと、結構鼻と耳が利くのさ。人間の姿より、こっちのほうが性に合うかもね。」
 あはは、と軽く笑った青年は、黒の左腕を拾い上げる。

 切断されたそれを目にした零斗の顔が、目を見開いた驚愕から、静かな憤怒に歪んだ。
 歯軋りが響く。


「お前…。」
「おやおや、怖いねぇ。…ほら。」
 ぽい、とまるでゴミのように左腕を投げた。

 それを見た黒が立ち上がろうとして、だが膝から力が抜けて倒れた。

 予想以上に出血が多かったらしい。

 足元の草が不透明の赤に染まっていた。
 


 左腕を片手で受け止めた零斗が、もう片方の掌を青年に向ける。

 怒りで表情筋肉が引き攣りそうになるのを押さえれば、何故か自然と笑みがこぼれる。

 全神経を掌に集中させ、自分の周りに満ちている空気に働きかけた。


「おろろ、怖い怖い。」
 青年は笑顔のまま、黒の首を掴み上げる。

 彼女を盾としたのだと零斗が理解したとき、彼は集中することを止めてしまった。

 青年の周りに真空を作ろうとしていたのだが、そうすれば『手』という媒介で繋がっている黒にまで被害が及ぶ。
 嗤っていた零斗の顔が悔しげに歪んだのを見て、苛立つほど穏やかな口調で青年が言葉を紡いだ。



「生徒会長、君の弱みは仲間だよねぇ。こんな風に盾にすれば、手も足も出ない。加えて言えば、まだ君は力を細かく制御する、あるいは時間を止める―――時間を『無』にするほどの訓練は積んでいない。違う?」
 零斗は笑った。


 ―――的確すぎる、と。
 


 確かに仲間を盾に取られれば、どうしようもない。

 それに今、彼女は重傷を負っているのだ。

 下手に動いて彼がもし、その首に力を掛けてみれば…。
 それに気付いたのか、青年はのほほんと答える。


「ああ、心配しなくていいよぉ? 僕はそんなサディストじゃないしぃ、この子は重傷だけど、自力で血を止めているみたいだからさぁ。しばらくは平気。」
 間延びした声は、ホストクラブの屋上で聞いた「おかしい伊家」の言葉遣い。

 間違いない。

 彼に取り付いていた「何か」だ。


「お前が、学生に薬をばら撒いて、伊家を猫に変えた張本人か。」
「あー、懐かしいねぇ。」
 まだ一ヶ月も経っていないその事件を思い出したのか、赤毛の青年は口を押さえて笑った。
「まあばら撒いた麻薬に、猫になる効能は無いけどぉ。この女の子の冥土の土産に教えてあげるよ。『俺』…じゃなかった伊家君に盛った麻薬の名称は、CHAPPU5963。いい名前っしょ?」
「ふざけた名称だな。」
 零斗は正直な感想を述べる。

 その間にも、彼は目で黒までの距離を測っている。

 普通に歩いて五歩の距離。
 


 この野郎、と零斗は歯噛みする。

 伊家も何とか距離を縮めようとするが、彼は一歩も先には進まない。

 青年に、全く隙が見つからないのだ。


「…何のために、こんなことを始めた。」
 零斗は問う。

 それが愚かだと言わんばかりに、青年は無邪気な笑顔で片手を開いた。
「みーんな、こんな邪魔な能力が無くせるってことで薬を飲んじゃったんだぁ。人知の及ばない力が無いって、いい世界じゃない?」
「ふざけるな。それだったら生きている奴ら全員、お前の言っている『いい世界』の土台になるだけだろうが。」
「能力者は、人格さえなければ最強の兵器になる。」
 そう独白した青年の顔は、ずっと虚ろでずっと澄んでいた。

 まるでその言葉自体が、呆れるほど脆い玻璃で作られているのかというほどに。


「兵器が無い世界を望んでいるのは、人間すべてだよ?」
 核兵器が無い世界、戦争が無い世界。

 まるで魔法の言葉でも紡ぐかのように、青年は僅かに身を前に屈めた。
「新しい兵器の製造を、止めるためだよ。」
 零斗は吹き出す。



 笑顔にその口を歪めたまま――――

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