Another fantasy ? 77 ?
手は僕の方を向き、よろよろと宙に浮かんでいる。
そしてシーとリクはというと、どうしたものか僕と手を見比べていた。
僕は心配そうな顔をした二人に見守られながら手へと近づく。
そして僕は手をじっと見つめた。
・・・一体何を言えばいいんだ。
何故か手は喋ろうとしない。
というか、手は小刻みに震え、どことなくおびえているようにも見える。
こういうときに限ってキルアもバリアも何も言わないし。
しかし、僕は決心した。
一人で何度か頷いてみる。
「・・・別に、弟子になってもいいよ。」
僕の口から出たのは、そんな自信無さげな一言で、後から思えば変な喋り方だ。
まぁ、意味が伝わればいい、結果オーライ!
「いいのでありまするか!!」
そして返ってきた返事もまたそんな奇妙なものだった。
しかも相手まで何故か声が小さい。
別に僕の真似はしなくていいんだよ?
まぁ、そんなことを口に出していえるはずもないんだけど。
とにかく僕は無言でこくりと頷いた。
途端彼は手をぱっと広げ、宙でくるくると回り始めた。
ずいぶんとうれしかったようだ。
しかし、今後どうすればいいのやら。
でも、なんだかんだで危険は回避できたようだし、めでたしめでたし!
と思いきや
(いやぁ、おめでとう!これであんたも魔王の上司!大魔王ってとこね?。)
というバリアの声で僕は何かいろいろなものを吐き出しそうになった。
「魔王?!」
魔王?!まおう?!と僕の発言はリクとシーにも移る。
そして一身に視線を浴びた手はもじもじと指を絡ませると、
「はい、俺、魔王やってます。」
と、はっきりと言い放った。
その瞬間僕らは全員固まる。
なんてやつを相手にしていたんだ、なんてやつを僕は弟子にしてしまったんだ、それでは何故手だけなのか、っていうかそもそも魔王ってホント?と言うような罵倒とか罵声とか疑問とかいろいろと頭の中を回る。
せめてどこかの・・・例えばエルフかなんかの悪い王様の霊が手の置物に宿り、それが堆積した魔力により、動きだした!!とか、そんな小説にあるようなモンスターかと思いきや、魔王?
まさかその手って生身の体なの?
僕は急に何か得体の知れない好奇心にかられた。
ちょっと手の表面を触ってみたい。
一体どんな感触なんだろう?
「ちょ、ちょっと手、触ってもいいかな?」
「いいっすよ!師匠!」
元気よく返事をしてくれる、手。
師匠と言う言葉にちょっと照れたり、不安が沸き起こってきたりしたけど、いまそれは無視!
僕は恐る恐る、手の表面を指先でちょいと触った。
途端電流のように何かが走り抜ける。
僕は慌てて手を離した。
(ケ?イ、よく魔王を触ろうなんて気になったねぇ!魔王触ったら1年寿命が縮むって話・・・)
(嘘だぁ!!)
手を離した途端笑い混じりに聞こえたバリアの声に対して、僕は思いっきりこ心の中で叫んだ。
なんと嫌味な性格!
と思ったのもつかの間。
(嘘に決まってんじゃん。)
(でぇ?!)
(やっぱ魔王に対しての知識っていうのは今時の子供は持ってないんだねぇ。あぁ嘆かわしい。)
と言うバリアの声はちっとも嘆いてなんかいない。
むしろどこか楽しそう。
(いやぁ、でも、普通は魔王に触れることなんてできないよぉ!これはきっと魔王ゆかりの何か力をもらったんじゃな?い?きっとがんばればケイは英雄になれるよぉ!あ、もしかしたら寿命は縮むどころか伸びたかもぉ!)
キルアもなんだかとても楽しそう。
何が楽しいか、君たち!
もうこれ以上力なんて要らないよ?!
僕は平凡に普通に暮らすつもりなんだから!
僕は思い切りうなだれる。
そもそもの始まりはなんだったんだろう?
何故僕は魔王を手下に・・・
「あ!!」
僕は今の今まですっかりと忘れていた最重要事項を思い出した。