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もうひとつの幻想 30

「準備完了!」
 杖を構えるハーブは口調こそ変わらないものの、目はかなりの真剣味を帯びていた。
 そして蔓はというと手に握る部分を以外はくるくると渦を巻き、まるでもとから杖のよう、植物らしさはあまりなく、作りもののようにも感じた。
 この植物は魔力で生きているため、枯れることがない。
 何とも不思議なものだ。


「みんな下がって」
 今度はいつになく真剣な声でハーブが言った。
 軽くうつむいた顔は帽子の鍔でほとんど見えない。
 私たちは少し顔を見合わせた後、一歩後ろへ引いた。
 私たちが少し距離をあけて少し間が空いた後、彼女の握る蔓が淡く輝き始める。


 数秒その光を見つめ彼女は空いた手で魔導書を取り上げた。
 そして背表紙を支える。
 すると、独りでにぱらぱらと魔導書のページがめくれていく。
 どうやら本を開くのに魔法を使っているようだが、ハーブがこんな細かい魔法を使えるとは知らなかった。
 きっと私がみていないところで、彼女は彼女なりに魔法の訓練をしているのだろう。


 そしていくらかページをめくると、本の動きはぴたりと止まった。
 ハーブの後ろ頭が少し動く。
 彼女が少し息を吸うのがわかった。


「ミヌツコリエ キズホテキンル ゴエバシッカン ヒクニコトミウ ヲゴギヲゾヲヌ トエトエジョンボリウ」
 すらすらと詠唱するハーブの声。
 私は頭の中で呪文を変換する。


 ”魔の力よ 風へと変わり 我が指差す先を 吹き抜け給え 我が眼前にたゆたう 邪を払え”そうなる。
 ハーブには何とも似つかわしくない言葉遣いだ。
 だが、呪文の語には人の性格は関係ない。


 ハーブが呪文の詠唱を終えた途端、辺りに吹いていた風が瞬時に消えた。
 ハーブが大きく息を吸う。


「風よ、吼えろ!」 
 ハーブが叫んだ途端、ハーブの握る杖が眩い光を発し、私たちの目下にある海岸を突風が吹き抜けた。
 瞬時に海岸中の靄が払われる。
 それと同時におびただしい数のモンスターが姿を現した。
「うわ」
 後ろでリクやクイットが息をのむ。


 その生き物はまさにモンスターというに相応しい見た目だった。
 細かいところまでは見えないが、真っ白な体毛に覆われたその姿は獣そのものだった。
 顔が確認できないのは惜しいが、しっぽは遠目からでもはっきり確認できる。
 ユナさんの言ったとおり、確かに貝殻のようなしっぽが生えていた。
 みるからに堅そうで、ぶつけられると痛そうである。


 私たちがスカッシーの姿を見て驚いていると、ハーブはその場にへたり込んでしまった。
「ハーブ、大丈夫か?」
「ちょっと休憩させて。慣れない魔法は使うもんじゃないねぇ」
 私がしゃがみ込むと、ハーブはまるでおばあちゃんのような物言いをし、ため息をついた。
 一気に老け込んだものだな、ハーブよ。


「クイット。ステップ2だ」
 私はおばあちゃんは労ることにし、クイットに指示を出す。
「わかりました!」
 びしっと敬礼するクイット。
 おいおい、クイット、私は君にとって何者なんだ、指揮官か何かか?


「ディストラクト!!」
 クイットは片手を空へと伸ばすと、目をぎゅっと瞑り、叫んだ。

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