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高校生が描く、オリジナルのファンタジー小説を連載しています。
大波のおかげで、スカッシーは半分ほど海へと流された。
巨大な波のしぶきは空高くあがったものの、一滴だって私達のほうへ降ることはなく、街のほうにもその滴が落ちることはなかった。
さすが精霊の力といったところだろうか。
私は精霊のおかげかほとんど消耗することなく、ここに再び立っていられる。
そして再びフロートは考えなしに崖をすべりおりていき、リクもハーブの手によってたっぷりと板にも武器にしていた球にも魔力を込めてもらい、意気揚々と戦いの場へと戻っていった。
ちなみに二人ともスカッシー本体はねらわず、スカッシーが集まる地面へ攻撃していただけで、スカッシー自体にダメージはほとんどいっていないだろう、とのことだ。
これで安心した。
きっと二人とも嘘はつかないはず。
「それではルビーさん、そろそろいいでしょうか」
「あぁ、あまり時間をかけるわけにはいかない。早めに切り上げたいし、試すなら今だ」
私の斜め前に立つフローラの耳に双子の魔女の耳飾りが煌めいている。
ついにそれの能力を試すときだ。
いったいどんな能力を持っているのだろう。
下方ではフロートが剣を振るい、相変わらずあちこちで爆発が起こっていた。
「それじゃ、スカッシー本体にはなるべく攻撃が当たらないように、炎か光を出してくれ」
「了解です」
そして彼女はハーブに貸してもらったという黒いローブを、普段店の接客用に着ているシンプルなドレスの上へとはおり、目をつぶった。
彼女は普段魔法を使って戦うことがないため、杖は持ち合わせていない。
しかし、今回はフロートやリクががんばってくれているため、杖がなくとも十分だろう。
「それでは、目眩まし用の炎を出すことにします」
「あぁ、それがいい」
目眩まし用の炎というのは、明かり用にも使われる炎で、熱はさほど持っていないが、明るさは通常の炎の数倍ある。
広いところを照らすのによく使われる火だ。
「あ、そうだ、急いでいるところ申し訳ないのですが・・・」
不意にフローラが口ごもった。
なにやら少し言いにくいことがある様子。
「何?」
「実は一つ、試したいことがあるんです」
「試したいこと?」
私が聞くと、何やら興味津々といった視線でハーブとクイットがこちらを向いた。
「実は最近知り合った人が、新しい呪文の一片を作ったらしいですけれど、それがうまく行くかどうかまだわからない、もし機会があればその呪文を試してほしい、と言われたのです」
「ほぉ、その呪文とは一体どんな?」
私よりもハーブの方がその呪文の一片とやらに興味を示した。
一片ということは呪文そのものではなく、呪文につけて、新しい効果を付加させる文句のことだろう。
「それは魔法で生み出したものの姿を変えるものです。その呪文を考案した人は炎に対してそれを使いたいとおっしゃっていました」
「なるほど。魔法の威力はそれだとどうなるんだ?」
威力が変わらないのであれば、試してみればいい。
威力が落ちてしまうのであれば、それは少し考え物だ。
「その方によれば、威力は変わらないはずだ、とのことでした。いくつかパターンがあるので、できれば試せるだけ試してほしいと」
「そうか。それならやってみるといい。威力についても例のピアスがうまいことやってくれるだろう」
イヤリングの力がその魔法にどのように作用するのか、そもそも呪文の一片とは一体どのような能力を魔法に付加させるのか。
「ねぇ、フローラ、その魔法の一片っていうのは一体どういう風に使うの?っていうかさ、その呪文ってどんな効果があんの?」
私が聞きたかったことをクイットが全部聞いてくれた。
ズバズバと質問をする人だな、クイットというのは。
「それが、使ってみてのお楽しみ、ということで・・・」
「そればっかりだな」
イヤリングの効果も魔法の効果も使ってみてのお楽しみとくれば、どうなったら効果が現れたのか判断できないじゃないか。
「まぁ、用は使ってみればいいんだよ。お楽しみっていうくらいだから、きっとおもしろいんだ!」
ハーブが楽観的に言う。
まぁ、相手が特に注意をしなかったという事はピアスにしろ、呪文にしろあまり害はないはずだ。
「私たちも急いでいることだし、使ってみればいい」
「わかりました!」
フローラは決意を固めたような、真剣な表情を浮かべ、海岸を見つめた。