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個性的で平凡な先輩

(部活で”のっぺらぼう”、”ドラム缶”、”俺は普通を愛しているんだ(アイ ラブ 普通 でも可)”というお題のもと、書いた短編です)



「ドラム缶風呂に入りたい」
 今度の先輩のお願いはそれだった。
 


 私と先輩は春、私が学校に入学したての頃に知り合った。
 いや、再会した、という方が正しいかもしれない。
 彼は昔、私が事故に遭いそうになったところを助けてくれたのだ。
 当時の事はほとんど記憶にないが、「大丈夫?」と聞いてきてくれたあの声ははっきりと覚えている。

 そして、私はこの春偶然その恩人に再会した。
 聞き間違えるはずがない、その魅惑の声を。
 その声はばっちり私好み。
 私は声に気づくやいなやどうにか先輩に話しかけ、会話する事に成功した。
 そして私はそのときあまり深く考えなかったために、取り返しのつかない事を言ってしまったのだ。
 「ご恩返しをさせてください!」と。
 
 :


 あんな事言わなければ良かったのだ。
 当時の私は先輩と一緒にいられるなら、その声をもっと聞けるなら、という気持ちで言ってみたのだが、先輩の性格は私の想像を絶するものだった。
 わがまま、だとか、すごく態度が偉そう、だとかそういう訳じゃない。
 ただとんでもなく個性的な性格だったのだ。
 

 彼は最初私が恩返しをさせてくれ、と言った時「それじゃぁ、僕のお願いを聞いてほしい」とだけ言って、呼び止める私の声も聞かずすたすた去っていこうとした。
 慌てて追いかけると、先輩は平然とお願いを話し始める。
「学校から少し離れた所にとある空き家があるんだが、そこにのっぺらぼうがいるらしい。一緒に探しに行こう」
 それが先輩のお願いだと気づくのに少し時間がかかった。
 冗談かとも思ったが、先輩の顔は至って真面目で、冗談を言っているようには見えない。
 でも、先輩と一緒にいられる、いやその声をもっと長く聞けるなら、ということで、私は先輩についていった。

 それが私の運の尽き。
 空き家にどうにか進入し中に入ればそこにあったのはただのマネキン。
 それではのっぺらぼうはいなかったから今のお願いは無効ね、と勝手に決められ、次にお願いされたのが、虹の根本には宝が埋まっているらしいからそこを堀りに行こうという事だった。
 もちろん虹の根本になんて行けるはずもなく、それも無効となる。 
 その後も、山に登って一緒にUFOを呼ぼう、とか、温泉を堀りに行こうとか、化石を探しに行こうとか、白いタンポポを捜そうとか、足の生えかけたオタマジャクシを見ようとか、様々なお願い(というよりお誘い?)をされたけど、ことごとく失敗に終わった。
 失敗する度、成功しなかったからそのお願いは無効とされ、私は先輩に振り回され続ける日々が続いた。

 しかしどんなに変わっていようと私は先輩(の声)が好きだった。
 そして、先輩がどんなに無理難題、不思議な事を言おうと決して先輩を個性的、とか、変わっている、とか言ってはいけない。
 一度だけ「先輩ってかなり変わってますね」と、何気なく言ってしまった事がある。
 そのときの先輩の変わり用は半端ではなかった。
 いっつもぼやっとしている口調が急に重くなるのだ。
 声はいつもよりずっとはっきりし、明らかな怒りのような感情が伺えるものになる。
 ただそのときの先輩の口調と声っていったらキャー!と声を上げたくなるほど、私好み!
 なんだけど、先輩の口調がクールになるのはほんの一瞬だけ、その間に謝ればよかったのだけど、声に聞き惚れ黙り込んでしまった私は先輩の逆鱗に触れた。
 その後の先輩はネジが外れたように「俺は普通だ!平凡だ!I LOVE 普通!!」と自分がどれだけ普通の学生かということを数時間にわたって説明された。
 あのような悪夢はもう二度とごめんだ。

 だから私はまた先輩のお願い的お誘いを受ける。
 今回はドラム缶探しだ。
 今度こそお願いを達成できる事を願い、私は先輩と町を歩く。

 けど、私はこの先輩と歩く一時が嫌いじゃないよ。

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