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テイクアウト 後編

 最寄りのゴミ捨て場というのは家のすぐ近くにある。
 しかしゴミ捨て場といっても、ただ壁にゴミの分別の板がぶら下がっているだけで、本来はただの歩道である。 
 柵も、ネットも何もない、漁りたい放題のゴミ捨て場。
 しかし近くに道路があり、平日は学生たちが行き交い、車もそれなりに通る道であるから、カラスや猫の被害にあうことはないようだった。
 しかし、家の前の道を直進し、ゴミ捨て場兼用歩道へと角を曲がったところで私は驚愕した。
 いや、さっきからなにやらカラスの声がわあわあと聞こえていたのだ。
 まさかと思ったがそのまさかであった。
 今まで何の被害もなく、決まった曜日の日にゴミがただより集まるだけの場所に黒いものが集まっていたのだ。
 それらはどこからどう見てもカラスである。
 彼らは私が近づいてきたのを一瞥すると騒ぎながら去っていった。
 ゴミを見ると一部引きちぎられ、中身の生ゴミが散乱している。
 今日は休日なので学生も通っていないし、車の通りも少ない。
 このまま散らかったまま放っておくのははばかられたが、しかし、私の家には箒やちりとりといった掃除用具がない。
 うちは掃除機さえあれば事足りるからである。
 私は少し後ろめたく思いながらも、ゴミを袋の並んだ列の一番端に置き、早々に立ち去ろうとした。
 そこで何か奇妙なものが目に付いた。
 もそもそと動いている。
 私の好奇心がひょっこり頭をもたげ、私はゴミ袋の隙間にうずくまるようにある、黒い物体を覗き込んだ。
 それはカラスであった。
 私がかなり近づいても彼は動こうとしない。
 いや、そもそもこれは”彼”なのか?
 彼女かもしれない。
 しかしカラスの性別の見分け方など私が知る由もなかった。  
 どこか怪我をしているのだろうか。
 カラスは頭がよいと聞くから人間の言葉がもしや分かりはしまいか、と小さな声で大丈夫か?と試しに聞いてみたけれど、彼はこちらをじっと見つめてくるだけでなにも反応をよこさなかった。
 私はどうするべきか途方に暮れた。
 もちろんこのまま彼を放って帰っても何ら差し支えはない。
 しかし私の良心というのは妙なところで働くのである。
 もしかしたら彼はさっきのカラスたちにいじめられていたのやもしれぬ。
 もちろんそれは推測にすぎないし、可能性はほかにも山ほどあるだろうけれど、私の脳裏にはイヤな考えばかりがよぎった。
 ここは彼をお助けするべきではなかろうか。
 彼を助けるべくして私はこの時間にゴミ捨てにやってきたのかもしれぬ。
 これも何かの縁だ。
 私は思い切って彼に手を差しのべた。
 その大きなくちばしでつつかれたらいやだな、と一瞬思ったが彼は小首を傾げ、私の手を見るだけである。
 私はえいやっ!と彼の体を両手で包んでみた。
 意外にも暖かいその体はどこか湿っている気がした。
 ちょっと汚いかしらん、と思ったが、私は動物好きである。
 家では何も飼っていないので、いつも動物がほしいと思っていたが、まぁ、カラスというのもいいだろう。
 彼は手で触れても、指をもぞもぞと動かしても、何ら嫌そうな素振りは見せなかったので、私は思いきってテイクアウトすることにした。
 カラス一匹お持ち帰りである。
 ゴミ捨てに着て何やらいい収穫をしたぞ、と私はほくほく顔で家に帰った。
 しかしながら、家にカラスを放すわけにもいかない。
 どんな悪さをするかしれないからである。
 とりあえず私は家の裏に回り、申し訳程度にある庭へ彼を離した。
 彼はゴミ捨て場にいたときと同じようにその場にうずくまり、意外とかわいらしい目で私を見上げた。
 しかし彼はなぜ動かないのであろう。
 人間にべたべた触られても無抵抗ということは、彼には何か大いなる事情があるのかもしれない。
 しかし彼の体に特に怪我はない。
 一回彼を持ち上げて、足の付け根の方など、裏側も見てみたが、なにもなかった。
 少しの間彼を触ったあと、私はとある考えに至った。
 もしや彼は腹が減ったのではなかろうか。
 ゴミ捨て場にはカラスの食料くらいにはなりそうな生ゴミがごろごろと転がっていたが、もし彼がいじめられているとしたら?
 またはどうしてもあのときものを食べられない状況だったら?
 もうとにかく、なんだかんだと考える前に食べ物を。 
 私はカラスに食べ物を取ってくる、という旨を伝え、家に駆け戻った。
 最初ゴミ捨てに行くときに使った戸から中に入り、まずは手を洗った。
 洗ったあとも手からは何か言いようのない、生き物の臭いというのか、不思議な臭いがしたが、とりあえずは何か食べ物の用意である。
 しかし米はまだ炊けていなかった。
 私は少し途方に暮れた。
 冷蔵庫に僅かに残った牛乳をあげてもいいのだが、猫じゃあるまいし、くちばしで僅かな牛乳を飲むのは至難の業だろう。
 そこで私はひらめいた。
 塩辛である。
 生ゴミを食べるくらいなら塩辛も食べられるのではなかろうか。
 動物には人間の食べるものはあまりよくないとは聞いたが、どうせそこらのカラスである。
 今回だけだ、これをやってみよう。
 少々ならおかんも減ったことに気づかないだろうし、万一気づかれたとしても、なにも食べ物がなかったから私が少し食べたと言えばいい話だ。  
 私は塩辛の詰まった容器を片手に、庭へと戻った。
 すると、カラスは位置を変えずにうずくまったまま私を待っていた。
 いや、私を待っていたわけでなく、ただ動きたくなかっただけかもしれない。
 とにかく塩辛を与えてみることにした。
 容器のふたを開け、少し指で摘むと地面に置く。
 すると今までほとんど自主的に動こうとしなかった彼が動いたのである。
 そして彼はぱくぱくと塩辛を食べ始めた!
 私はなんだか感動した。
 あぁ、動いている、食べている!
 よりペットがほしくなった私であったが、彼が仲間を呼んできたら困る。
 あまりカラスは仲良くなるべきではないと思われた。
 彼らの鳴き声は近所迷惑にもなる。
 彼らはあまり好かれていないのが現状だ。
 私が思案していると私の目前を黒い点がよぎった。
 私の手は考えるよりも先に動く。
 そして両手はその点をとらえた!
 そこでようやく意識が追いつく。
 合わせた手を開くと蚊が一匹のびている。 
 やった!と思ったのも束の間、足下に視線が固定された。
 そこには血を吸い終わって飛び立つ一匹の蚊の姿があった。
 よく見ると私の足や腕にはいつの間にか赤い点がいくつもついている。
 これは昨日までなかったものだ!
 そう、ついさっき、そして今も、私は蚊に対して足を惜しげもなく晒し血液を無料で支給していたのである。
 私は目の前のカラスに塩辛をもう一摘み提供し、愚痴につき合ってもらうことにした。 
 もちろん内容は忌まわしき黒き点である。
 奴に睡眠を妨害され、無断で血液を搾取され、忌まわしき痒みと羽音を残し、奴らは今もここらでのうのうと宙をさまよっているに違いない。
 蚊取り線香さえあれば!
 私の話の序盤で塩辛を食べ終わっていたが、彼は辛抱強く私の話を聞いてくれていた。
 かわいらしい瞳で私を見上げ、終始小首を傾げて私の話を聞いてくれていた彼。
 彼はなかなかにいいやつだ。
 私は礼を述べた。
 すると彼は不意に羽ばたいた。
 驚く私をよそに彼はあっと言う間に飛び去っていってしまう。
 私は遠ざかる彼の姿を見て、一人笑みを浮かべた。
 別れも言わず急に去っていったのはいけ好かないが、相手はカラスである。
 これは今後小説を書く上でのいい経験になったではないか。
 話のネタにもなる。
 動物の考えることはいまいちわからんが、まぁいい。
 貴重な体験をしたのだ。
 一人庭でニヤつく私は端から見れば大層不気味であったろうが、その場には私と忌まわしき黒い点が数個漂っているだけであった。

 :

「実はこの話には後日談があるんだ」
「へぇ、どんなの?これだけでも相当変わった話だけどな。まるで嘘みたいだ」
「嘘とは心外な。これは本当の話だ」
「嘘とは言ってないじゃないか。嘘みたいってだけで」 
「うん、まぁ、いいだろ。実はそのあと不思議なことがあってね」 
「へぇ、何々?」
「実は次の日の朝学校に行こうとしたら家を出たすぐそこにね」
「そこに、何だよ?」
「いやさ、そこに、蚊取り線香が置いてあったんだ」
「へ?」
「蚊取り線香だよ、あの緑のぐるぐるの奴」
「え?それがむき出しで、地面に?」
「そう。何にも包装されずにそれだけぽつん、って。一個だけ。しかもその横には黒い羽が落ちてたんだよね」
「それって!」
「うちが思うにこれはカラスの恩返しではないかと」
「塩辛をありがとうございますって?」
「そうだよ」
「変な話だね、にわかにはとても信じられない」
「おいおい、信じてちょうだいよ。友達でしょ?」
「ま、信じない訳じゃない。あり得ない話じゃないしね」
 そう言って彼は、かわいらしい瞳で私を見上げ小首を傾げた。
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