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とある狸の手記 1

 僕は狸だ。
 名前を”とろわ”という。
 僕は日本に住んでいるから、表記としてはひらがなで”とろわ”と記述するのがいいのだろうけれども、それだと分かり難いのであえてカタカナで、トロワと記させてもらう。
 何故狸がこうしてこちゃこちゃと文を綴っているのかというと、不意に書きたくなったからだ、僕の体験について。
 これを人間が見たらなかなかに粋な書き方の文章だと思ってくれるのではないだろうか。
 主人公が狸で狸の目線から語られるとはなかなかにおもしろいではないか、と。
 僕が思うほど人の世というのは甘くないかもしれないけれど、少なくとも狸界で小説、しかも人間に向けたものを書くのは僕くらいだろう。
 今回は僕の経験した数ある冒険談のうちの一つを、ここに記そうと思う。
 君も狸にでもなった気分で読んでみてくれると幸いだ。

 :

「トロワ、お前、暇をしているんだろう」
 僕はその日急に叔父に呼び出された。
 僕の叔父は古めかしい小さなビルのような建物の一階で、リサイクルショップ兼骨董屋をやっている。
 その店は叔父やその他狐界の重鎮達が切り盛りしているのだ。
 僕がいつものように自分達に割り当てられた部屋で、思索に耽っていると、不意に妹のアンがやってきた。 
 アンから叔父が呼んでいると聞き、僕は骨董屋の方に出てきたというわけだ。
 でっぷりと太った中年男の格好をした叔父は、腹をぷよぷよ震わせながら偉そうにふんぞり返る。
「暇と言えば暇ですけど、忙しいと言えば忙しいです」
 僕は自分の状態を最も的確に表したのだけれど、叔父は不機嫌そうな顔をした。
「どうせ、また何の役にも立たん事でもやっていたのだろう」
 叔父はそう決めてかかる。
 何を言うか、僕は今後の狸界の未来について考えていたのだ。
 狸鍋というものを人間が一〇〇%忘れ去るためには狸一匹一匹が一体どう行動すればよいのだろうという、大変為になる事を考えていたというに。
「お前は捜し物だけは一丁前にできるようだからな。一つ頼まれてくれ」
 その偉そうな態度は人にものを頼む態度か、とどんな狸が見ても思うだろうけれども、僕は果てしなく心が広い。
 このような叔父の態度で怒り出すほど僕は小さな狸ではないのだ。
「何でしょう?」
 僕は笑顔で返事をする。
 すると叔父も表情を少し緩めた。
「お前には今まで、いくつも捜し物を頼んだな」
 叔父は少し遠くを見るような顔をする。
 そう、彼は今まで僕に大層な無理難題を押しつけてきた。
 その様はまるで竹取物語のかぐや姫のようだった。
 さすがに蓬莱の玉の枝なんかを取ってこいとは言わなかったけれども、各地のご当地キャラクターのキーホルダーや根付けをコンプリートしろだの、大王イカを釣ってこいだの、火の玉をつれてこいだの、身の丈3メートルを超える巨大招き猫を持ってこいだの、金の桃を食べさせろだの、嵐を起こす扇を持ってこいだのと何かと言いつけてきた。
 僕はそれを知恵と努力とその他云々を駆使して、クリアしてきたのだ。
 中でも最後の嵐を起こす扇というのが一番ぎりぎり合格ラインだった。
 というのも、そんなもの天狗にでも頼まないと手にはいるはずがない。
 というかあの偏屈な天狗達がそうそうそんなお宝を譲ってくれるはずはないのだ。
 そこで僕は東奔西走し、真っ白な扇ととある犬を連れ帰った。
 真っ白な扇に嵐と書き、叔父が見ている目の前で、眠っている犬をその扇で仰いだ。
 するとその犬がぱっと目を覚ますのだ。
 その犬の名はアラシという。
 叔父の言ったとおり、僕は扇でアラシを起こしたのだ。
 これには叔父も舌を巻いた。
 それから叔父はしばらく何も言ってこなくなった。
 これで僕は叔父の魔の手から逃れられた、今度の事で懲りたか、と思われたのだけれど。
「今度は空飛ぶ畳を調達してきてくれ。捜し物しか能がないお前だ。これくらいやってくれるよな?」

 :

 僕はことごとく仕事というものができなかった。
 昔は僕も叔父の店の手伝いをしていたものだ。
 というのも僕と弟、妹は叔父に養ってもらっているからである。
 なぜ叔父に養ってもらっているのかというと両親は既にあの世へ旅立ってしまっているからだ。
 僕の両親は僕ら兄弟が小さい頃人間に捕まって、狸鍋にされてしまったらしい。
 今の狸の敵は狸鍋を今のご時世好き好んで食べようとする人間と、車等乗り物である。
 もちろん狸だって学習しない訳ではない。
 外を歩く時は念のため、人の姿になるようにしているし、人に変身できない小さな子狸は外を歩かないようにしている。 
 人の姿さえとっていれば、鍋にされる心配もないし、そうそう車にも轢かれない。
 変わり身とは狸達の生きる術である。
 そして僕はその化け術が自分でいうのもなんだけれど、群を抜いてうまかったのだ。
 それはもう小さなものから大きなものまで何にでも変身できた。
 けれど、それ以外の生きていく術はさっぱりだった。
 人間の姿はとれるけれど、生きていくための掃除や料理や裁縫なんかは何一つ、全くと言っていいほどできないし、計算ごとも大の苦手だった。
 こうやって文章を書く事くらいはできるのだけれど、狸が文章をいくら書けても飯は食えない。
 僕は仕事もできず、ただ叔父さんに養ってもらうほかなかった。
 もし僕が店に出る事になると、会計係をやれば計算を間違え、店は赤字の手前まで真っ逆様、店の掃除をやれば、品物が木っ端微塵に砕け、仕入れに行けば、見る目がなくガラクタばかり集めてきてしまう。
 叔父はほとほと呆れ果てた。
 そして最後に頼んだ仕事が捜し物だったのだ。
 最初は難題を押しつける訳でなく、品物の一つとして仕入れてきた指輪を落としたから探してきてくれ、というものだった。
 その後もお使いめいた事や、叔父が望む品物を見つけてくるような、時には難しいけれど、こなすのに頭を悩ますようなものを頼んでくる事はなかった。
 そして、あるときから、僕がどんなものでも片端から見つけてくる事に味を占めた叔父は、僕に無理難題を押しつけてくるようになったのだ。
 今まではどうにかこなしてきたけれど、今回ばかりは途方に暮れた。
 空飛ぶ畳?
 そんなものどこからどう探してくればいいというのだ。
 
 :

 僕は探し人”とろわ”として各界で有名だった。
 狸界ではもちろんのこと、狐界、人間界、更には妖怪達も僕を訪ねてきた。
 僕は叔父だけでなく、いろんなモノ達の捜し物を捜索して回った。
 そのおかげで様々な収集品もでき、人脈も広がった。
 このきっかけをくれた叔父に感謝をしていないというわけではないけれど、何もせずにぐうたらしているのだって僕は大好きだった。
 まぁ、ぐうたらするのが嫌いな人はいないだろう。
 できることなら僕は畳の上で転がって、のうのうと寝て暮らしていたかった。
 しかし、そのようなわがままは今更言えない。
 話を戻すが、僕は先ほど述べたように色々と収集品ができた。
 しかしそれらは僕の使っている部屋に置いておくわけにはいかなかった。
 というのも、そこは弟と妹と僕の3匹共同で使っている部屋だからだ。
 今弟と妹は社会勉強のため、高校生に化けて学校に通っている。
 ちなみに狸が人間界の学校に行くという掟やぶりの事を最初にやらかしたのは僕だ。
 僕は転校生として、高校に潜り込んだ事がある。
 学費や教材費などの費用は、捜し物をした報酬や収集品を売ったお金賄ったのである。
 僕はすっかり学校生活をエンジョイし、そこから、人間でいう中学生ほどの歳になった狸の子供達はそれぞれ人間界の学校に通う事となった。
 つまり僕は狸界の歴史を変えた偉大なる狸なわけだが、叔父はそんな僕を目の敵にした。
 何かにつけては僕に対して、悪口にしか聞こえないような事を言い、皮肉を浴びせた。
 僕だけならまだしも妹や弟にもそのような暴言を吐き、僕は怒り心頭に達した。
 それから僕は弟妹に対して何か言われる度に仕返しとして、いたずらを仕掛けた。
 叔父が風呂に入ろうとしていると知れば、隙をついて湯を水に変え、僕の収集品の一つである本物そっくりな蛇のおもちゃをこっそり投げつけ、夜中叔父の部屋に忍び込み、老婆の姿に化けて叔父の上に一晩乗っかっていた事もあった。
 偉大なる狸を怒らせるとこのような事になるのだ。
 叔父もしばしこういった仕返しが続くと、どういう行動をとれば報いが返ってくるか学習したようで、我が弟妹達に対する暴言はなくなった。
 しかし僕に対する攻撃が止む事はなく、心の広い僕はそれを全て受け止め、努力を重ねた。
 偉大な狸は心が広くなくてはならぬ。
 しかしながら叔父は最終的に言葉だけでなく、無理な捜し物で僕を責め立てた。
 いくら僕が偉大であれ、仕事をしておらず、家賃・食費等何も払っていないのであれば、ただの居候である。
 居候は捜し物の一つくらいしてあげなければ申し訳なく思った。
 そして僕は健気にも空飛ぶ畳を探す努力を始めた。
 これぞまさにお涙頂戴の物語の始まりである。

 :

「空飛ぶ畳? そんなものあるわけないだろう。おまえの叔父はどこかおかしいのか?」
 僕は叔父のいる骨董屋を離れ、海へ向かった。
 骨董屋の前は商店街のような大きめの通りとなっており、人通りも多く、八百屋、肉屋、魚屋という夢のトライアングルがすぐ近くにある、にぎやかな場所だった。
 そんな所で僕の美しい毛並みを晒せば瞬時に人だかりができ、どこかへ連れ去られるに違いなかったので、僕は人間の姿に化けた。
 しかし僕はこの通りに多く出没する一般にオバサンと呼ばれる連中が苦手であった。
 可愛らしい子供の姿に化けた弟と妹がそのオバサン共に群がられているのを見かけた事がある。
 そんな時僕はかわゆい弟達を助けてやりたいながらも言いしれない悪寒が走り、そそくさとその場を逃げ出すのであった。
 そしてそんな僕は今時芸人でもしていないような見事なまでのさらさらマッシュルームヘアに、黒いハイネックに白い長ズボンという、日の照りつける地獄のような暑さの夏なのに大層暑苦しい格好をしていた。
 しかし僕は汗を全くかかない。
 なぜなら普段の毛皮と厚い皮に比べて人間の着る服は大層薄かったからだ。
 こんなもの僕のような偉大な狸には屁でもない。
 しかし、オバサン連中は気持ち悪いものでも見るような目で僕を見る。
 きっと僕がこのような格好をしていながら汗一つかかず涼しい顔をしているのが、不思議でたまらないのだろう。
 決して不気味に思われているわけではない。
 僕は偉大な狸である、人間とは違うのだ。
 僕はさりげなくそれをアピールするため、さっき述べたような姿に変わり、町を闊歩するのである。
 そして今僕は通りを抜けた先の海、その浜に建つ廃墟のようなボロ家の中にいた。
「いやいや、田中氏。この世の中、僕たちのように人間が知らない生物が存在している以上、人間が知らない物もまだまだ沢山あるという事だよ。その中に空飛ぶ畳があっても何ら不思議はない」
 僕の前には机を挟んで、若いながらも冴えない風貌の人間の男、田中太郎氏と、金髪に浴衣というミスマッチファッションを惜しげもなく展開する不可思議な天狗、烏丸(カラスマ)氏が鎮座していた。
「確かに僕は空飛ぶ畳というものを知っている」
 烏丸氏は遠くを見るような目つきで顎をさすりながら言った。
「本当ですか?」
「いや、しかし」
 僕が身を乗り出すと烏丸氏は顔をしかめる。 
「しかし?」
「僕が知っているのは厳密に言えば畳ではなく、座敷だ」
「なんと!」
 畳ではなく、座敷とは。
 座敷は畳の集まりだからあながち間違ってはいないけれど。
「いや、ちょっと待ってくれないか、お二方」
 そこで、異常に汗をかいた田中氏が口を挟んだ。
 夏だから暑いのは当然だけれど、彼の汗のかきようは半端でない。
「いいかい、どうやったら座敷が空を飛ぶというんだ。そんなのどう考えたってあり得ないじゃないか!」
 田中氏は真っ赤な顔で、ばしんと机を叩いた。
 何をそんなに怒っているのか僕には分からない。
 烏丸氏もきょとんとした表情をしている。
「さっきも言ったじゃないか、田中君。世の中人間が知らないものは沢山あるのだ。ここは黙って受け入れる方が賢明だよ」
「そんなもの! 見てみないと信じられません!」
 そこで烏丸氏は盛大に溜息をつき、ちらりと僕に目配せをした。
「ならトロワ君。君の愛車を彼に見せてあげたまえ」
「分かりました。彼女を連れてきます」
 僕はさっと席を立ち駆けだした。
 田中氏がぼんやりと口を開け、僕を見送る。
 僕は走った。
 我が愛機、マリリンを連れてくるために。
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