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とある狸の手記 2

 僕は夏のある日、偶然出かけたゴミ集積場で彼女と出会った。
 捜し物は僕の仕事であり、趣味でもあった。
 今日も何か掘り出し物がないかと、町の外れをしばらく行った先の、人気のない寂れた空き地に僕はやってきた。
 当時は歩くほかにそこへ行く交通手段はなかったため、遠いその地に向かうのは億劫だったが、何もやる事がなく、時間のある午後はそこで有意義な時間を過ごす事を決めていたのだ。
 僕に仕事の依頼をしょっちゅうしに来る常連の一人はゴミあさりが趣味なのかと僕をからかうが、僕の趣味をゴミあさりなどと言うとは心外である。
 僕の高尚な趣味は誰からも理解してもらえないのが悲しいところだ。
 そして、いつものように渦高く積まれた資源の山を物色していたとき、僕の目は山の隙間からにょっと飛び出したハンドルを捉えた。
 車の運転席についているようなハンドルの先は、何が眠っているのか物の影で全く見えない。
 僕は何かこのハンドルに運命を感じ、周りを覆う物をどうにかよけ始めた。
 この作業は思ったより重労働で、多くの労力と時間を有した。
 しかし僕は諦めなかった。
 もし、このハンドルの先がちっぽけな何の変哲もないおもちゃの車だったら?などという事を考えなかったわけではないが、不思議と、このハンドルの先は僕が今まで見た事もないような物に違いないと感じた。
 僕はその勘を信じ、働き続けたのである。
 暖かな昼下がり、この地にやってきたというに、ガラクタを取り終えたとき、空は橙に染まっていた。
 汚れた手を偶然見つけた雑巾で拭い、僕は、その姿を白日の下に晒したハンドルの先を見た。
 それは不思議な事に染み穴、ほつれたところが一つもない座布団であった。 
 埃や土を被って薄汚れてはいたものの、致命的な傷は何もない。
 僕はその悠然たる姿を見て、心高鳴った。
 きっと彼女は僕に出会うため、この地に赴いたのだ。
 しかし、心ない人間の手によって、彼女は小汚いガラクタと共に埋もれてしまったのだろう。
 普段はこの地を資源の山と賞する僕だったがその時だけは、彼女以外はガラクタにしか見えなかった。
 これこそ、僕とマリリンの出会いである。 

 :

 僕は海岸沿いをしばし行った先にある林の中に隠れ家を持っている。
 林の中には木で作られた小さな小屋が建っており、誰かの物置のようだったそこは、僕が訪れた時は既に物がほとんど置かれていなかった。
 きっともう誰も使っていないのだろう、と踏んだ僕は自分に許可を取り、ありがたくその小屋を使わせてもらう事にした。
 仕事として掃除をする時は絶対と言っていいほどの確率で何度も失敗するのだけれど、責任が全て自分に返ってくるとなると不思議と失敗をしなかった。
 そしてどうにか綺麗になった小屋の中に僕は収集品類を詰め込んだのだ。
 そして、その中の一段と飾りたてられたスペース、ほかとは違って命一杯壁や床を磨き、美しく仕上げた一角に彼女は悠然と座っている。
 入り口に程近い場所で彼女はいつも僕の帰りを待っているのだ。
 本当は家に連れ帰りたいところだが、僕と弟妹の部屋に彼女をもてなす場所がない。
 野晒しなどもっての他である。
 それに彼女の存在を叔父に知られては些かならず面倒だ。
 叔父の事である、彼女の存在を知った途端何かと理由を付けて彼女を連れ去ろうとするに決まっている。
 僕は無駄な争いは好まない。
 だから僕は涙を呑んで彼女と別居生活を送っているのだ。
「やぁ、元気にしていたかい?」
 僕は彼女に一声かけ、連れだって外へ出た。
「今日も頼むよ、マリリン」
 僕は彼女に身を任せ、一路田中氏と烏丸氏の待つ民宿へ飛び立った。

 :

「信じられん」
「が、信じるほかない」
 田中氏の言葉を烏丸氏が引き継いだ。
 田中氏はもう呆然と頷くほかないようである。
 僕が田中氏達の待つ建物に戻ると、さっきまで3人で集まっていた部屋の窓が開け放たれているのが確認できた。
 きっと烏丸氏が気を利かせてくれたに違いない。 
 僕はその窓から田中氏の目前へマリリン共々参上仕ることにした。
 僕が身を引くとマリリンはふわりと高度を上げ、十分な高さまできたところで、今度は前に身を傾ける。
 すると次第にマリリンのスピードが上がった。
 そして僕はカーテン揺らめく一室に突入し、田中氏の度肝を抜いたわけである。
「田中君。世の中空飛ぶ絨毯、空飛ぶ座布団があるなら空飛ぶ畳や空飛ぶ座敷があっても不思議はなかろう?」
 烏丸氏がニヤリと笑った。

 :

「お、おい、これはどうやって飛んでるんだ?座布団にハンドルが生えただけじゃないか! 落ちたりしないのか!」
「これとは何だ! 彼女はマリリンだ! そんな口の聞き方をすると彼女の機嫌を損ねるぞ!」
 田中氏の失礼な発言に僕は早口で応酬した。
 僕と烏丸氏、田中氏の3人は今、町の上空を飛んでいる。
 烏丸氏の話によれば、町から程近い山の中にある小さな神社、その中の座敷が、例の空飛ぶ座敷だというのだ。
 昔烏丸氏が噂だてらに聞いた話で、実際に確認した事はないそうなのだが、行ってみる価値はあるだろうという事で、僕らは急ぎそこへ向かっている。
 烏丸氏はそこまでの案内、田中氏は烏丸氏が連れていこうと提案したため、一緒に来ていた。
 田中氏は一週間程前この地にやってきた大学生である。
 そしてひょんなことからさっきまで僕らがいた海岸のボロ家で妖怪向け民宿を経営する事になった。
 僕はそんな彼の下で働くようぬらりひょんの爺様に言われたのだけど、僕が働くとろくな事にならないのは自覚済みだったため余計な事はしなかった。
 ちなみに彼の民宿の一人目の客が烏丸氏である。
 彼以外は今のところ客が来る気配は全くないので、田中氏は烏丸氏に付きっきりなのだ。
 田中氏の仕事は客の面倒を見る事だけだからである。
「こ、この、ま、まりりんさんに気まぐれなところとかはないのかい?」
 田中氏はしどろもどろにそう聞いてきた。
 彼にも少しは礼儀という物があったようである。
「いや、彼女は至って誠実な女性だ。一度決めた事はきちんとやりきる、芯の強い女性だ」
「そ、そうか」
 田中氏はまだ腑に落ちないような表情をしていたが、それ以上は何も聞いてこず、ハンドルにしがみつくようにして、彼女を運転していた。
 ちなみに狸である僕は上空をいかに羽ばたいていたのかというと、九官鳥の姿を借りていた。
 これなら少しは喋る事ができる。
 ちなみに烏丸氏は天狗なので、どういう仕組みなのかは定かでないが、僕らの前を寝そべるように、漂うように飛んでいた。
「例の社はもう少しだ。それまで二人ともがんばりたまえ」
 この中で疲労が見えないのは烏丸氏だけだった。
 僕は九官鳥に化けた事が間違いだったのか、既にスタミナが切れそうである。
 田中氏は慣れないマリリンの運転で疲労困憊のようだ。
 帰りは少し方法を変えねばならぬやも。
「そういえば、神社に例の畳があるという話だったが、それがあったらどうするんだ?」
 不意に田中氏が口を開いた。
「そりゃ・・・・・・あ」
 僕は田中氏の言わんとする事を即座に察する。
「神社の物を勝手に持ち出していいのか?」
 そうである。
 神社の物を持ち出すなど罰当たりにも程がある。
 しかも今回僕らが隙あらば奪おうとしているのは畳ではないか。
 神社から畳を取り上げてみたまえ、一体どんな天罰が下るか分かったものではない。
「しかし、そうは言ってもだ」
 そこで口を開いたのは烏丸氏。
 彼はまるで畳の上に寝そべるかのような格好で口を動かす。
 顔が空の方を向いているので、まるで僕らじゃなく雲にでも話しかけているようだ。
「他に手がかりはない。神社の物を持って帰れはしなくとも何かいい事があるかも」
 烏丸氏は何もなくてもとりあえずお参りをして帰ろうと言った。
 その神社は正直者の願いを必ず叶えてくれるという。
 それならば安心である。
 この純真無垢、聖人君子のような僕であれば、参った途端願いは叶うであろう。
「そうか、まぁ、ここまで来て引き返すのもな」
 下を見れば、既に僕らは森の領域に入っていた。
 振り返ればそこに我が町の姿が小さく見える。
 思ったより短い時間に遠くまで来たようだ。
「そろそろ山頂付近か・・・・・・」
 先頭を行っていた烏丸氏が僕らの横に並んだ。
 目を細め前方を見やる烏丸氏。
 僕も九官鳥の、あまりよいとは思えない目を瞬かせた。
 すると少し先にぼんやりと建物が見える。
「あれは鳥居か?」
 田中氏が前方を指さした。
 ようやくゴールが見えたようだ。
 こうなれば俄然やる気が出てくる。
 僕はその地に一番降り立とうと、羽に力を入れた。

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