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とある狸の手記 3

 疲れ果てた僕は、懐かしき地面の上へ思い切り横たわった。
 体も一番落ち着く狸の姿へと戻す。 
 そうして地面に横たわる僕の近くで、ざざっと何かが地面を踏む音がした。
 きっと烏丸氏や田中氏、マリリンがここへ降り立った音だろう。
 僕は砂などがつくのを気にせず、ゴロリと転がりうつ伏せになった。
 顔だけを持ち上げると、そこには大きな鳥居がそびえ立っている。
 その鳥居の奥には石畳が続き、道の先には古ぼけた社の姿があった。  
「さて、トロワ君。いつまでも寝ている場合じゃないぞ」
 転がっている僕の横を烏丸氏、その後ろを田中氏が歩いていく。
 僕はまだこうやって父なる大地と触れあっていたかったが、仕方がない。
 僕はのっそりと起き上がり、いつもの人の姿をとった。
「あ、おまえ戻ったのか」
 やってきた僕を田中氏が少し驚いたように見る。
 まだ田中氏は僕がいろんなものに化けることに対し、慣れていない。
 まぁ、出会って間もないし、それも仕方がないことか。
 石畳の両脇にはにょきにょきと木が生え、枝が歩く者のすぐそばまで迫ってきている。
 雑草も生え放題生えており、ここには長い間人が訪れていないのだろう。
 この社を管理する者はもういないのだろうか。
「どうする? お参りを先にするか、それとも、社の中に侵入するのが先か」
 烏丸氏がニヒルな笑みを口元に浮かべ言った。
 侵入とはなかなかに冒険心をかき立てるようなことを言う。
 ただ、一人田中氏だけはむっつりとしていた。
「侵入とは人聞きの悪い。なんかあったらどうするんだ」
「そうだな、じゃぁ、君は罰が当たらないようにお参りするのがよかろう。僕は空飛ぶ畳が手にはいるよう願ってから作戦を開始する」
「じゃぁ、お参りをしてからミッション開始か。リーダー」
「うむ」
 僕と烏丸氏はなんだか妙な盛り上がりを感じた。
 これから僕らが行うのは神社の中から空飛ぶ畳を回収するミッションであり、リーダーがこのトロワである。
 烏丸氏が僕の右腕、田中氏は臆病な下っ端隊員ということでいこうではないか。
 僕ら3人は社の前に設置されている、壊れそうな賽銭箱の前に並んで立った。
 賽銭箱の奥には社の入り口がある。
 入り口の襖を開ければ、その先に例の畳があるのだろうか。
 田中氏はポケットから100円玉を取り出し、烏丸氏は縁起がいいからと5円玉を取り出し、僕は烏丸氏の上をいき、ありったけの5円玉、全部で9枚を取り出した。
 僕らはそろって小銭を投げ入れ、目を閉じて祈る。
 今後様々なことが万事うまくいきますように、と。
 そして目を開けると、目の前の壊れかけの賽銭箱が心なしか綺麗になっているように見えた。
 これは気のせいだろうか?
「ではリーダー。いざ!」
 烏丸氏の声に僕は深々と頷き、田中氏は深々と溜息をついた。
 僕は賽銭箱の横をまわり、社への小さな階段に足をかける。
 扉に鍵はかかっていないようだ。
 襖の前に僕は仁王立ちした。
 その両脇に烏丸氏と田中氏が立つ。
 障子が所々破け、風雨に晒されたその襖は立て付けが悪そうではあるが、開けるには苦労しなさそうだ。
 お札のようなものも張られていないし、なにやら封印が施されたような物々しい跡もない。
 僕は襖に手をかけた。
 後ろでは烏丸氏と田中氏が固唾をのんで見守っているのであろう、視線を感じる。
 僕は両腕に思いきり力を込め、一気に襖を左右に開いた。
 思ったより襖を開けるのに力はいらなかったようで、勢いよく戸は滑り、ぱんっ、といい音をたてた。
 そして僕らの目の前には今まで放っておかれたとは思えないほど綺麗な色をした畳の姿が。
 美しい正方形を形作るその地は素晴らしきかな四畳半であった。
 四畳半の奥には板張りの小さなスペースがあり、そこには大きな円鏡が一枚奉られているだけである。
 ほかには飾りっ気も何もなく、壁にも天井にも床にも何もない。
 しかしたった一枚の鏡には異常なまでの存在感があった。
「これは入っていいものか・・・・・・」
 珍しく烏丸氏が後込みした。
 田中氏は言うまでもなく仏頂面である。
「不安なら君達二人はここにいたまえ。僕には使命がある。プライドがある。偉大な狸としての誇りがある」
 我ながらかっちょいい台詞をはいたと思った。
 しかし、かっこつけるだけではいけない。
 僕は思わずにやけそうになってしまった顔を引き締め、一歩踏み出した。
 足が畳に触れる。
 僕はその勢いのまま畳へと乗り上げた。
 キッと前を、鏡を見据える。
 途端音を立てて襖が閉まった。
 烏丸氏と田中氏が僕の名を呼ぶのが聞こえた。
 やはりここには人ならざる者がいるようである。
 ならば僕は偉大なる狸として真っ向から勝負するまで!
 僕は後ろを振り返らなかった。
 ずんずんと前へ進む。
 鏡へ向かう。
 そして僕は鏡の前に立ち、それを見上げた。
 いつの間にか僕の姿は狸へと戻っていた。
「あなたはだぁれ?」
 不意に背後から小さな人間の女の子の声がした。
 振り返るとそこには淡い光を放つ着物姿の女の子が座っていた。
 しかし変なところがある。
 光っているという時点で相当変であるが、彼女の大きさがおかしかった。
 彼女の見た目は5歳くらいの女の子なのだが、狸である僕が2本足で立ったくらいのサイズしかない。
 光っているだけで透けているわけではないから彼女は幽霊ではないだろう。
 なら何か妖怪の類であろうか。
「他人の名を聞くのであればまず自分から名乗るのが礼儀であろう」 
 僕はどこかの小説やらなんやらで見聞きした台詞をそのまま用いた。
 別に僕は名を名乗る順ぐらいで腹を立てたりしないから普段はこのようなことは言わない。
「あたしの名前? そんなもの忘れた」
 どれだけ忘れっぽいのだ。
「でも、あたしは座敷童子っていうらしいよ。今年の初めここにきた頭の大きなじいちゃんが、あたしのことをそう呼んだの」
 頭の大きなじいちゃん?
 少し心当たりがあるが、今気にするべきはそれではない。
「君は座敷童子というのか」
 確か座敷童子のいる家は繁栄すると聞いたことがあるがこの神社は衰退の一途を辿ってはいまいか。
 大丈夫なのか、この子は。
「君の名前は?」
 彼女は鼻にしわを寄せる僕の顔を覗き込んだ。
「あぁ、僕はトロワという。見てのとおり狸だ」
「ふぅん、変な名前」
「僕がつけたのではない」
 変な名前だと言われてもこの名前を付けたのは今は亡き我が両親である。
 変だというなら星になった親に言ってくれたまえ。
「それで君は何でここにきたの? この中には普通は入っちゃいけないんだよ。君けむくじゃらだし」
 けむくじゃらは関係あるのか。
 いや、そんなことはいい。
 彼女はこの神社のなんなのだ。
 守り神か何かか?
「君こそ一体ここで何をしている?」
「あたし? ・・・・・・人にものを尋ねるときはまず自分から答えたまえ」
 彼女は一旦何か言いかけた口をつぐみ、いたずらを思いついたような顔でそう言った。
 今度はこちらから何か情報を漏らさねばならんな。
 小奴、なかなかやりおるぞ。
「僕は空飛ぶ畳を入手するべくこの地に赴いた。君、何か知っているか」
 ならば、こう切り込んでみてはどうだ。
 これで自分のことを少し漏らしつつ、相手に情報を求められる。
「あぁ、空飛ぶ畳はこれ。まぁ正しく言えば空飛ぶ四畳半」
「やはりか!」
 思った通り今僕らが向かい合って座っている畳こそ、僕が捜し求めている空飛ぶ畳、いや座敷、うんにゃ四畳半であったのだ。
 しかしどうやって持ち出そう?
「これが目的なの?」
 女の子が無表情で聞く。
 彼女の顔からはなにも受け取れない。
 さっきまで笑顔を湛えていた顔だけあって、甚だ不気味である。
 しかしここで嘘をつくわけにもいくまい。
 彼女はきっとこの畳に憑いているのだ。
 彼女の許可なくしては僕がこの畳を持ち出すことなど不可能であろう。 
「うむ」
 僕は彼女の顔を正面から見据え頷いた。
 二人の間に流れる不気味な沈黙。
 彼女は無表情のまま。
 どうなるのだ、僕の身に何か起こるというのか。
 いつの間にか気絶していて、気づけば鍋の具になっているという悲劇的な最後を迎えることになるのか?
 僕の脳内は自らが墜ちていく様がありありと浮かんだ。
 が、しかし僕の目の前の彼女は予想外の行動にでた。
「わかった! あたしは一生あなたについていく!」
 彼女は急に僕をぬいぐるみのように抱きしめたのだ。
 僕は目を白黒させた。
 彼女のついていく! という言葉が、憑いていく、という意味のように感じた。
「ど、どういうことだい?」
 思い切り抱きすくめられ、僕は息も絶え絶えにどうにか聞いた。
 すると彼女がふっと腕の力を弱める。
 見上げると、彼女が不思議そうな顔で僕を見ていた。
「だって、あなた始終ご縁がありますように、って、お願いしたでしょ?」
「ぬん?」
 僕がお願いしたのは万事物事がうまくいくように、ということであって、断じて座敷童子に一生つきまとわれますように、ではない。
「あなた5円玉を9枚入れたでしょ?」
 確かにそうだ。
 5円玉は縁起がいいと聞いたから僕はそのとき持っていた5円を全て賽銭箱に入れた。
 確かその5円の枚数は彼女の言うとおり9枚。
「9かける5を九九で言うと、くご、しじゅうご。つまり5円玉9枚で、しじゅうごえん、始終ご縁がありますように、って意味になるわけ」
 僕は驚愕した。
 何の気なしに偶然持っていた5円玉を賽銭箱に投げ入れてみたのだが、僕の入れた5円玉達にそんな意味があったとは。
 これが通常の神社に参ったのであれば相当な縁起物であろうが、今の場合は相当迷惑な縁を結ばれそうである。
「あたしはこの地にきてからずっと持ち主を捜していたの。たまにはこの神社に戻ってこないといけないと思うけど、あなたとはずっと一緒ね!」
 とても可愛らしい屈託のない笑顔を浮かべる彼女だが、僕は鼻にしわが寄る一方である。
「さぁ、トロワ! どこに行こうか?」
 僕には彼女を拒む権利はないようである。
 口を挟む隙を与えてくれない。
 いや、しかし、僕が畳を探していた理由だけはきちんと伝えねばなるまい。
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