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非凡レール 3話 1

「さぁ、そこから飛び降りてみたまえ」
「む、無茶言うな!!」
 俺は今、夏の強い日差しが大いに猛威を振るう中、倉庫の屋根の上に立っている。
 いかれポンチの大学生のような金髪頭の天狗の相手をしていたらこのような事になってしまった。
 一体俺はどうしてこんなにも線路を外れてしまったのだろう。

 :
 
 そもそもの事の発端は一週間ほど前、俺の寝泊まりしていたぼろアパートに死霊のような見た目をした、リョウという男がやってきたところから始まる。
 もうその辺りは周知の事であろうから説明を省くが、今俺がどのような生活を送っているかはきちんと解説しておくべきだ。
 まず、未だに我が下宿の宿泊客は一人きりであり、その客こそ、例の天狗、烏丸(カラスマ)氏である。
 俺や彼の他にこの宿に出入りするのは炊事、洗濯、掃除などを担当している、すーという女性。
 彼女はこの、見た目からは到底民宿とは思えないボロ屋で働いてもらう代わり、仕事の時間以外は好きなだけテレビを見てもよい、という条件で仕事にきてもらっている。
 ちなみに彼女は本来狐であり、居間に行くと狐が韓国の俳優にきゃあきゃあ言っている世にも奇妙な光景を見る事ができた。
 そしてその時居間には一緒にわいわい言っている女の子の姿がある。
 その女の子は座敷童子だ。
 この店に出入りするとろわという奴が連れてきたものである。
 彼女、幽霊のようなものだからか、飯は食わないものの、その代わりいつも銭を求めてくる。
 幽霊のようなもの、というのは、彼女、いつも淡く光っているのだ。
 けれど実体はあり、銭を手に握りしめ、嬉しそうな顔をする。
 貯まった金を一体どう使うのかは知らないが、彼女には彼女なりの考えがあるのだろう。
 実際座敷童子と呼んでいて、見た目も子供であるが、もう十分大人へと彼女は成長しているのだ。
 ただ子供の姿の方が楽にできるらしく、ちっこい女の子の姿ではしゃいでいる。
 そして、一番の問題がその座敷童子を連れてきたとろわである。
 そいつのせいで、俺は座敷童子という新たな問題を抱えるようになってしまった。
 そもそもそのとろわという男自体問題の塊である。
 仕事はしないし、妙に理屈っぽいところがあり、暇にかまけて人の平穏の邪魔をする。
 俺の仕事は民宿の客の相手をすればいいだけなのだが、相手をするといっても本来特にしなくてはいけない事はない。
 だから、本当であればのんべんだらりと過ごす事ができるのだ。
 しかしそこをとろわが烏丸氏に何か良からぬ事を吹き込み、俺は倉庫の屋根に上って、飛び降りろなどと言われる事になったのである。
 最初はちょっとした段差や階段を跳んで降りるよう言われ、なんだかよく分からないがお遊び感覚で付き合っていた。
しかし最終的にこの様だ。
 俺の身に何かあったらどうしてくれるんだ、忌々しい狸め!

 :

「大丈夫さ、君なら飛べる?」
 烏丸氏が間延びした口調で言う。
 その彼は宿の屋根瓦の上にビニールシートを引いて座り、麦酒をすすっている。
 しかも塩辛まで摘んでいる。
 昼間から何という奴。
 けれど顔色が全く変わらず、口調がのんびりしているところ以外変化がない。
 もしかすると烏丸氏は相当酒に強いのかもしれない。
「こんなところから飛び降りたら絶対どこか怪我するに決まっているじゃないか!」
 俺は全く持って正当な意見を述べたのだが、烏丸氏はどこ吹く風である。
「大丈夫、大丈夫、ちゃんと段階は踏んだんだから」
 俺は盛大に溜息をついた。
 さっきからずっとこの調子である。
 倉庫のてっぺんから地面まではおよそ3、4メートルほど。
 足をくじくくらいするんじゃなかろうか。
 そもそも俺はあまり高い所が好きではない。
 嫌いではないし、安全であれば恐怖は全く感じないが、飛び降りるとなれば別だ。
 大いに身の危険を感じる。
「ぐずぐずしないで?。もうちょっとなんだから、サクサクいこうよ?」
 さて、俺がなぜこうやって高い所からぴょぴょんする練習をしているかというと、空を飛ぶ特訓である。
 あ、今笑っただろう。
 なに言ってんの? 頭大丈夫? とか思ったであろう。
 俺も同じ心境である。
 そう、とろわが烏丸氏に吹き込んだ事というのは俺を彼の弟子にする、という事であり、俺を天狗的人間に育て上げる事であった。
 この天狗になろうぜ作戦は俺がこの地にやってきて早二日目から開始された。
 俺の了解なく、である。
 立場上、俺は客である烏丸氏の頼みを断る事ができず、ちょっとした段差を飛んだりひたすらジャンプするという意味不明な所行を繰り返し行った。
 夏場の適度な運動にはなったがそれ以上の効果は毛ほども感じられない。
 そして、それが天狗に近づく修行と聞かされたのは昨日の夜である。
 烏丸氏はまず手始めに飛ぶ事から身につけようとのたもうたのであった。
 俺はまず耳を疑う。
 普通の人間である俺がいくら跳ねても飛べるわけがなかろう、と。
 こうやってぴょんぴょこするだけで空が飛べるものか。
 高い所から飛び降りるだけで空が飛べるようになるのなら、世の中飛び降り自殺を働こうと考えた人々が空の彼方を飛び回っていることであろう。
 しかし残念ながら人間というものは跳べば落ちるのである。
 このような無意味な事は即やめるべきだ。
 いくら客人の面倒を見ろ、と言われていても、怪我をするのが分かりきっている事をやる必要はないはずである。
 俺は断固として飛び降りない所存だ。
 心に決めた俺は、屋根に座り込んだ
「あー、もう、後少しなんだってば! 君は後少しで跳べる?! 自分を信じろ?!」
 なにが信じろだ。
 どこに信じる事ができる場所がある?
 しばし日の照りつける灼熱地獄の中俺たちは睨み合った。
 汗が体中を伝う。
 拷問である。
 しかし烏丸氏は何とも涼しげだ。
 俺はTシャツの裾で汗を拭った。
 俺の横には、屋根に登るために使用した梯子がかかっている。
 隙あらばそこから下に降りて、麦茶をすすりたいところだが、烏丸氏は俺から目を離さない。
 どうしたものか。
 しかし唐突に睨み合いは幕を下ろした。
「まだやってたのか」
 マッシュルームヘアが屋根に登ってきた。
「とろわ、おまえ!」
 俺が諸悪の根元を睨みつけると、奴はウインクを投げて寄こした。
 俺は奴の視線を振り払うように眼前で手を振る。
 しかしとろわの奴、俺の動きには目もくれず、烏丸氏に何か耳打ちをした。
 苛立ちが募る。
 俺にこのような修行をさせようと目論んだ時もこうして耳打ちをして、二人でこそこそしていたに違いない。
 俺が睨みつける中、とろわはなにやらごにょごにょ言い、烏丸氏はにっこりと笑った。
「田中君。修行は一旦中止して、一つ頼まれてくれないか」

 :

「まったく、おまえは暑苦しいな。ついてこないでいいと言っただろう」
「そんなつれない事を言うんじゃない。いいじゃないか、僕も少しは出かけたいんだ」
「おまえを連れ歩くと俺まで変な目で見られる」
 俺ととろわは今、喫茶店“赤っ鼻”に向かっている。
 というのも、その店に新しくワインが入荷し、その知らせを聞いたとろわが烏丸氏に報告したのである。
 烏丸氏はワインに目がなく、即俺たちを使いに出した。
 要するに俺はとろわに助けられたような形になったのだ。
「僕のこの格好は蚊から我が身を守るためのもの。あんなものに刺されたら狸に戻れなくなる」
 そう言うとろわは、夏、しかも日の照りつける午後だというのに、いつもの黒い長袖ハイネックに、白い長ズボンという出で立ち。
 確かに肌がほとんど出ていないから蚊に刺される心配はないが、暑苦しいにも程がある、目に毒だ。
 おかげで道行く人の怯えたような視線を感じる。 
 これではまるで俺たちが変質者のようではないか!
 しかしとろわは常に涼しい顔をしていた。
 汗も全くかいていない。
「しかし、なぜ俺は天狗修行などというものをしなくてはならないのだ」
 あのような実りのない運動に時間を費やすのは無駄という他ない。
 すぐにでも止めてもらいたい。
「仕方ない、跡取りとして認めてもらうには空が飛べなくちゃ話にならないじゃないか」
「は?!」
 今このマッシュルームはなんと言った?
 跡取り?
 俺は幻聴でも聞いていたのか。
「すごい汗だ、どうしたんだい。プレッシャーになったかな、今の」
 プレッシャーも何も理解ができない。
 詳しい説明を求む。
「おまえ、今跡取りとか言ったか? 言ってないよな、そんなまさか」
「あぁ、跡取りと言った。君は烏丸氏の跡を継ぐのである」
 俺は足を止めた。
 人通りが少ない場所を歩いているので、幸い通行の邪魔にはならない。
「急に止まらないでいただきたい。急にどうしたっていうんだ」
 俺はのほほんと話す奴の顔を見て、一気に怒りが爆発した。
 とろわの襟首を思い切り掴む。
 三流ドラマの演技みたいだが、今はそんなところで恥ずかしがっている場合ではない。
「おまえ、なに人の人生のレールを歪めてやがんだ! これ以上歪んだら、元の生活に帰れない! 俺は一夏の契約でここにきてんだ!」
 俺が怒鳴るととろわは迷惑そうな表情を俺に向けた。 
「あのね、収入がないのに、どうやって元の生活に戻るのさ。君には今食べ物を買う金も、住む場所を確保する金もない」
 痛いところをついてくる狸である。
 余計に苛立ちが募った。
「そんなものどうにでもなる! 俺は夏の終わりと共に平凡な人生に戻る!」
 俺はとろわを突き飛ばした。
「全く乱暴だなぁ!」
 とろわは後ろに数歩よろけたが、どうにか踏み留まると、溜息をついた。
「跡取りといっても仮の、だよ。本当に跡を継ぐ訳じゃない。ただ烏丸氏の体裁を保つためには弟子っていうのが必要なのさ」
「体裁?」
「天狗界にはいろいろと面倒な部分が多いという事である」
「そんな事を言われても困る。おまえが弟子になればいいではないか」
「僕は別に空を飛ぶ訓練なんてしなくても鳥に化ければいくらでも空を飛べるから修行する必要はない」
「修行をする必要はない? もしかしておまえは既に弟子だったのか?」
「まぁ、そうだ。ちなみに弟子は3人とって一人前の天狗。次は君が新たな弟子を捜す番だ!」
「何を勝手な事を!」
 聞けば聞くほど面倒な話だ。
 俺に一体どうしろと言うのか。
 このままひたすら意味不明な行動を繰り返せというのか。
「あのね、やれば本当に跳べるんだよ。信じないから跳べない、それだけの話さ。心の底から100%飛べると信じる事ができれば自由に空は飛べるのである」
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