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もうひとつの幻想 55

 魔法で空気を身に纏った私とハーブは、リザードマン達の背中に捕まり、海を泳いだ。
 水中は真っ暗だというのに、彼らはすいすいと泳いでいく。
 彼らはここらを泳ぐ事に慣れているのだろう。
 きっとどこに何があるか分かっているのだ。


 そしてしばし、洞窟のような細長い道を通った後、私たちは不意に外に出た。
 いつ洞窟のような道が終わったのかは分からなかったが、気づけば洞窟の外で、私たちは海面に顔を出す。


 しかし、ここで重大な事を思い出した。
 グルーモを呼ぶのを忘れている。
 こんなどこと知れない海の中、二人でグルーモを待つのは嫌だ。
 あの洞窟の部屋にいたときにグルーモに連絡をすれば・・・。


 いや、そもそも今は真夜中だ、こんな時間に連絡しても果たしてグルーモが気づくかどうか。
 きっと今の時間ジーク乗り場には人がいないだろう。
 いたとしても眠っている頃合いだ。


 そこで私は良い事を考えた。
 メモ帳は使えないが、代わりに精霊に海の水で氷を作り、それで文字を作ってもらえばいいのだ。
 どうもリザードマン達の文字は短い単語で意味が繋がるようである。
 彼らに街まで送っていってもらえないか頼む事にしよう。 


 私はその旨をハーブに伝え、もう一度頭部分に魔法をかけてもらうと、水中に顔を沈めた。
 そして精霊に氷の文字を作ってもらう。
 精霊は私の指示通り、水中の私達より少し離れた所に、氷で作った文字を浮かべ、私達に翻訳した。


 よし、この方法は使えるぞ。
 これなら水中でも会話ができる。
 新たな技を見つけたな!
 密かにほくそ笑む私をよそに話は決まった。


 彼らは快く私達を街まで送ってくれるという。
 さっきまで、操られていたとはいえ、氷漬けにしたり、魔法をぶつけたりしていたというに、彼らはなんといい人たちだろう。
 私たちは何度も彼らに礼を言い、彼らに捕まって、海を泳いだ。


 海面に近い場所で、いくらか星明かりがあったものの、暗い海を泳ぐのは不気味だった。
 しかし、我がままは言っていられない。
 眠くなる頭を降り振り、私は水中を見つめた。

もうひとつの幻想 54

 リザードマン達と長い間話し合った末、分かった事は、この洞窟に誰か人間らしき人がやってきたという事であった。
 そいつはさっきまでここらを覆っていた魔力を纏い、明らかに不審な人物だったという。
 はっきりした日付は分からないが、そいつが現れた辺りからどうもこの辺りに嫌な魔力が充満し始めたようだ。


 こういう話をしているうちに徐々に他のリザードマン達も動き始めた。
 氷漬けにされていた彼らも元気になったし、電気で気絶していた者達もしばらくしたらむっくりと起き上がった。
 彼らに一通り私達は自己紹介をし、彼らもいろいろ話してくれた。


 普段彼らはここらの海で、魚を狩って生活しており、この洞窟にはたまにやって来るという。
 この部屋の四隅にある池は外海と通じており、リザードマン達が集まって何か話し合う時などにここに集い、集会を開くのだとか。


 それで、彼らの名前も聞いたのだが、どうも私たちにはうまく発音できないし、どれも同じように聞こえる。
 ワオ、とか、オウ、とかウォーとか。
 それに見た目だって判別がつかない。
 雄・雌の差は何とか分かるが、顔の差なんて分からなかった。 
 まぁ、今のところ支障はないので良しとしよう。


 それで、彼らは怪しい魔力の流れを感じ、この部屋にやってきたのだが、どうもそこで魔法をかけられてしまったらしい。
 それで様子がおかしくなり、女の子リザードが心配していたようだ。
 魔法にかけられてしまったため、その人物が何をしていたのかは分からないそうで、女の子リザードに聞いても、変な魔力が充満し始めた事しか確認できなかったそうな。
 この広場の中に入ろうにも操られた彼らが見境なく襲ってくるので、女の子は中に入れなかったのだとか。
 つまりこれ以上、この中で起きた異変について詳しい事は聞けないようだった。


 それで、男がどんな見た目をしていたのか聞いてみたが、真っ黒なマントを羽織っており、顔の周りや頭にも真っ黒な布を巻いてあって、殆ど肌が見えない姿をしていたらしい。
 唯一見えた目は真っ赤な色をしていたという。
 赤い目をした人とはその人物もまた使役魔法をかけられていたのだろうか?
 それとも本当に赤い目をした人物だったのだろうか。
 もし本当に赤い目をしている人物ならもしかしたら活路を見出せるかもしれない。
 赤い目の人物、と覚えておこう。
 もし身近に、シアグラード内に、そんな人がいればととても怪しい。
 ユナさんにもちゃんとこれは報告しよう。


 そして一通り異変について話した後、話題は例の宝箱、そして宝箱に入っていたものの話になった。
 しかし、リザードマン達は宝箱の中身どころか、扉の奥の事まで知らなかったらしい。
 奇妙な人物が来る前は、扉には厳重に封印がしてあって、リザードマン達にはどうしようもなかったそうだ。
 しかし彼らにとっては特に興味、関心がある事ではなかったので、扉はそのまま放っておいたらしい。
 つまりその奇妙な人物が封印を解き、扉を開いたようである。


 その宝箱には元々は違う物が入っていたのかもしれないが、とりあえず、ハーブの鞄から例のもやもやを彼らに見せてみた。
 彼らはハーブの鞄にすっぽり入ったもやもやを興味津々といった面持ちで眺めていたが、誰もそのもやもやがいったい何なのかは分からなかった。
 ただ、厳重に封印して、更に宝箱に入れるほどの物ではなさそうだ、と彼らは言う。
 確かにその通りだ。
 今のところ何の危害も加えてこないし、変化もないので、持ち歩いても大丈夫じゃないのか、とも彼らは言った。
 まぁ、彼らもそう言うのなら、持って帰っていいだろう。
 何、一晩だけだ。


 こうして私達は精霊を介してぎこちなくだが会話し、意外と仲良くなった。
 少しなら何となく言葉も分かるかもしれない。
 もしこの後事件が起こったりして、何か忙しくなったりでもしない限り、また会いに来ると約束し、私達は元の街に帰るべく立ち上がった。


 そして元来た道を引き返そうとした私達だったが、街に帰るのなら、部屋の外海に通じる池から行った方が早いという事で、私達は彼らに送ってもらう事となった。

もうひとつの幻想 53

「何これ、どうしよ?」
 ハーブが困ったような顔をして私を見上げるが、そんなもの私は知らん。
「持って帰った方がいいかな?」
 ハーブはもやもやを指で突く。
 私は小さめの光球を浮かべ、もやもやを覗き込むが、やはり何ともいえない。


「でも、これほっといてなんか変な事になったら困るしさぁ。持って帰ってユナさんに見せてみようよ」
「持って帰ると言ったって手に持てないのにどうやって?」
「そりゃぁ、鞄に入れればいいのさ」と言うが早いかハーブは鞄を開け、白いもやもやを押し込んでいる。
「おい、待て!そんな得体の知れない物持ち帰って大丈夫か?!」
「一晩くらい大丈夫だよ。明日になったらユナさんに引き渡せばいいさ」
 何の根拠があって一晩は大丈夫だと言えるのだ。


 しかしユナさんに見せるというのは良い手である。
 ただ今は遅いので、見せるとなれば明日になってしまうではないか。
 要するに見せるとなれば必然的に一晩私たちの部屋にお泊まりいただかないといけないというわけである。


 どうしようか決めかねる私だったが、不意に背後に何かの気配を感じた。
「何だ?!」
 振り返るとそこにはリザードマンがいた。


「お前・・・!」
 私が睨みつけると、彼は悲しそうな顔をした。
 いや?これは彼じゃない、彼女だ。


 リザードマンの雌は頭の鰭が雄とは少し違うのだ。
 そもそも目つきが雄と違う。
 雄が鋭い目つきをしているのに対し、雌は少し大きく、くりくりとした丸っこい目をしている。


「あれ?目が赤くない」
 ハーブも彼女の存在に気づき、首を傾げた。
「もしかしてさっきの風が吹いた時、魔法が解けたのかもしれない」


 私はリザードマン、―――いやウーマンと言うべきか?―――の横を通り抜け、さっきリザードマン達と戦った広場に戻った。
 さすがにこっちは暗すぎて何も見えないので、先程戦っていた時と同じように大きな光球を浮かべる。


 氷漬けにした方のリザードマンを見ると、さっきまで浮かべていた敵意のようなものは消え、こちらを見た目も赤い光など宿っていなかった。
 私は慌てて手を振り、精霊に心の中で指示を出す。
 すると、氷は瞬時に溶け、リザードマンたちは床に崩れ落ちた。
 それを見て女の子リザードが駆け寄る。


 彼女は一人のリザードマンを抱えながらこちらを向いた。
 そして何やらくぐもった声で鳴く。
 バオ、とかウォウとかいった感じに。
 どうも何か私たちに話しかけているようだ。


 こういう時精霊の翻訳が役に立つ。
 私は再び心の中で精霊に呼びかけた。
 今回は手の形をした精霊だけでいいだろう。
 暢気に雪だるまにインクを垂らしている場合ではない。


 私はこんな事もあろうかと、今回はポケットにメモ帳とペンを入れておいたのだ。
 池から現れた精霊に早速そのメモ帳とペンを渡す。
 後ろでハーブが、メモ帳とペンの係は私なのに、と呟く声が聞こえたがそんな係を決めた覚えはない。
 というかそんな小さい係ではなく、もう少し大きな係を決めたまえとも思う私である。


 そしてメモ帳片手に飛んでいった精霊を最初怯えたように見ていた彼女だが、精霊が何やら文字を書いたメモを見せると、大人しく話をしてくれるようになった。
 そして帰ってきた精霊のメモ帳を見ると、何やら摩訶不思議な絵文字のようなものの下に、私達の言葉に訳された文が書いてある。


 ”アナタ タチ ダレ ? カレラ ナゼ タオレタ ? サイキン ミンナ ヨウス オカシイ ナゼ ?”

 と書かれている。


 この調子だと彼らに話を聞くのは少し時間がかかりそうだ。
 それでも、ここで何があったのか聞かねばなるまい。
 私は精霊を使い、根気よく彼らと話をし、私達の事も精霊によって伝えた。

もうひとつの幻想 52

 そしてひたすらに私たちをなぶりつけた風は不意に止んだ。
 いつの間にか私達が浮かべたいた光球は消え、辺りは真っ暗闇・・・の筈だったが、私達の前方にほのかな明かりが見えた。
 どうも扉の先の空間に光が射し込んでいる場所があるようだ。
 私は少しよろけながらも、扉の奥を目指した。


 もう既にさっきまで辺りを漂っていた不可解な魔力は完全に消え去ったようで、周囲は穏やかな空気に満ちていた。
 どうもさっきの風によってどこかへ飛び去ったようだ。


 そして、扉の向こうに入り、見上げると、ずっと上にぽっかりと穴が空き、星の瞬く綺麗な夜空が見えた。
「外だ」
 私が呟くと、ハーブが遅れてやってきて、彼女も空を見た。
「ほんとだ。もうすっかり夜だね」


 私たち二人は並んでしばらく小さな夜空を見上げていたが、やがて視線を前に戻した。
 もう目が慣れたようで、私達がいる場所を見渡す事ができた。


 といってもそこはとても狭い場所で、人が5人程しか入れないような場所だった。
 そして、私たちの前には1メートル四方くらいの大きな箱がある。


「こ、これは宝箱ではないか!」
 ハーブがどこか芝居がかった口調で言う。
 確かに彼女の言うとおり、それは宝箱のようだった。
 木で作られたその箱は所々金属で補強され、それはもう絵に描いたような宝箱である。
 その堂々とした佇まいに私は心震えた。
 このような箱を目にして喜ばない冒険者はいまい。


 だがしかし。
「開けていいのか?」
 今正に箱を開けんとするハーブを見て私は言った。


 ユナさんはできるだけ物に触れるなと言ったのだ。
 このような見るからに宝箱を触れるだけならまだしも開けていいのだろうか。
 ハーブも手の動きをぴたりと止めた。
 彼女もユナさんの言っていた事を思い出したに違いない。


「いや、でももしかしたらこの箱の中にさっきの魔力の出所のヒントになる物があるかもしれない。これを開けなかったせいでもしかしたら大変な事になるかもしれない」
 ハーブは私を見つめた。
 確かにユナさんはあまり物に触れるなと言ったが、しかし、この箱の中に全ての元凶が入っていたら?   

 この箱を今開けなかった事で何か大変な事が起きたら?
 


 そして私は胸の高鳴りに負けた。
「よし開けよう!」
 言うが早いか、ハーブは蓋を開けた。
 


 そういえばこれを開ける事で何か大変な事が起こるかもしれない、これを開ける事で、全ての元凶が復活するかもしれない、という考えが過ぎったのはハーブが蓋を開けた後だった。
 


 しかし。
 特に何も変わった事は起きなかった。
 箱を開けた途端さっきのような真っ黒な風が吹いてくるわけでもなかったし、金銀財宝が顔を覗かせるわけでもなかった。
 


 その箱にあったのは得体の知れない白いもやもやである。
 なんだ、もやもやとは?!と思うであろう、しかし。
 そう表現する他なかったのだ。
 


 そいつの見た目は白い煙のようでもあるが、煙にしては密度が濃く、息を吹きかけてみたが毛ほども揺らがない。
 しかし気体じゃないなら手で掴めるかといえばそういうわけではなく、掴もうとしてもそれはするんと手の内から逃げてしまう。
 その白いもやもやは長さ20センチほどの、丸っこい体。
 丸っこい部分が頭で、徐々に細長くなっていっている。
 見れば見るほど訳の分からない代物だった。

もうひとつの幻想 51

 私たちはようやく扉の前に立った。
 ハーブも少し時間をおくと幾分か回復したし、リザードマンたちにもちゃんと息があった。


「これは」
 扉を眺めていた私たちだったが、ふと扉の下の地面に視線を止めた。
 そこには壊れた南京錠のようなものが落ちていたのだ。
 大きな透明の石がはめられたその南京錠は、一部高熱で溶けたかのように溶け、奇妙な壊れ方をしており、すでに錠としては使いものにならなくなっていた。
 鍵穴がないところを見ると、真ん中にはまっている透明な石がカギを解くもののようで、どうもこれも封印の役目を果たしていたのではないかと思える。
 


 扉の方に使われていた金属もどうも特殊なもののようで、この金属も扉の向こうにある何かを封印しているように見えた。
 しかし、封印の魔法のようなものはすでに感じられず、この扉を閉めているのは扉の真ん中に一つだけある簡素な閂だけだった。


「これはもう封印が解かれてしまった後かもしれないな」
 しかし封印というものが解けた後ならなぜ、こんなに嫌な空気が充満しているのだ?
 何かよからぬものの封印が溶けたのなら、そのよからぬものと一緒にこの魔力も姿を消しているはずである。


「ルビー、考えても仕方ないよ。扉を、開けてみよう?」
 目を瞑ったまま首を傾げていた私の肩にぽんとハーブが手をおいた。
 目を開けるとハーブが意を決したような目で私を見ている。


 確かに彼女の言うとおり考えていても仕方がない。
 私は彼女にうなずき返し、閂に手をかけた。
 隣でハーブがゴクリと唾を飲む。


 私は深呼吸した後、閂をはずした。
 だが、まだ何も起こらない。
 今度は扉に手をかける。


 私はちらりとハーブを見た後、扉を押した。
 扉は金属で至る所に装飾されているため、かなかなかの重量があった。
 しかし、一人であけられないほどではない。
 私は力一杯その扉を押し開くと、中は真っ暗だった。
 さっきリザードマンたちと戦っていた部屋の上空にはそのまま光球を浮かべていたし、念のため私たちの頭上にも光球を浮かべていたのだが、光球の光はいとも簡単に飲み込まれた。
 思った以上に濃い闇が口を開けたことに驚く私たちだったが、驚くのはまだ早かった。
 


 目を見張る私たちの背後から急に突風が吹き付けてきたのだ。
 しかもその風の色は真っ黒。
 煙よりも黒い、炭のような空気が私たちの周りを包む。
 


 うっすらと目を開けてみるとその黒い風は私が今開けた扉の先に吸い込まれていっていた。
 どこからその風が出てきたのか、それは何が起こした風なのか、わからないことばかりだ。
 しかし、その風こそが今まで私たちの周りを漂っていた不穏な空気、黒い魔力であることだけは伺いしれた。
 


 そしてひたすらに私たちをなぶりつけた風は不意にやんだ。

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